新聞雑誌など

2019年8月17日 (土)

ネット右翼

 新しい事態を指示する新しい概念については、さしあたり際立った例示が示されれば十分である。本書では「ネット右翼」についてのいくつかの例示が示されている。

 私が気にかかったのはネット右翼の語り口の定型性である。私は語り口が定型的であることは書き手の知性の否定的指標だと思い込んでいたが、話は逆らしい。この定型性は意図的に構築されているのである。/定型的な言葉づかいを繰り返しネット上にまき散らすことは「特定のトピックを際立たせるための効果的な戦略」であり、botを利用すれば、特定の政治的争点について、イデオロギー的には親和的だが、それまで組織的には無縁だった人たちを結びつけて、彼らを巨大な「世論選好のクラスター」にまとめあげることができる。/安倍政権の政治的成功はこの「クラスター形成」にあるという指摘には強く胸を衝かれた。/たしかに、自らアジテーションの現場に立つと、定型的な言葉づかいを繰り返すほど聴衆は「盛り上がる」ということは実感としてはよく分かる。ふだん私が教壇で話しているようなややこしい話を演説会場でしても、さっぱり受けない。それは、私が聴き手に自分のそれまでのものの考え方を「棚上げ」して、しばらくの間「中腰」に耐えてもらうことを求めるからである。/しばらくの判断中止に耐えうることは知性的であるための重要な条件だと私は思うけれど、それはいまの日本の状況では政治的成功を断念することにほとんど等しいのである。

内田樹の研究室、のブログ 2019.08.16
『ネット右翼とは何か』書評、から

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2019年8月15日 (木)

文化的開放度

 日韓の政府間では緊張が続いているが、民間での連携はペースダウンすることなく深まっている。私の本も先日出た『大市民講座』に続いて、『最終講義』『街場の文体論』『女は何を欲望するか』が出版される。この文化的な開放度の差はそのまま今後の日韓の国力の差に帰結するように私には思われる。
 「ウチダの本の韓国語訳が出ることが、どうして日韓の国力の差に結びつくんだ。何をうぬぼれているんだ」と憫笑する人もいるかも知れないけれど、そんな人でも、今韓国の思想家の書物が短期間に十数冊連続的に日本語訳されるということがもしも日本で起きたら、浮足立つだろう。
 私たちは「起きたこと」については「どうしてそれが起きたのか?」を問うけれども、「起きてもいいのに起きなかったこと」については「どうしてそれは起きなかったのか?」を問う習慣を持たない。
 隣国の知識人が(主流であろうと傍流であろうと)何を考えているのかを理解したいという意欲を韓国人は有しており、日本人は有していない。その差がいずれ国力の差としてかたちをとるだろうと私は言っているのである。

内田樹の研究室、のブログから 2019.08.15
『女は何を欲望するか』韓国語版序文

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2019年8月12日 (月)

聖と俗

「聖地はスラム化する」というのは大瀧詠一さんの洞察であるが、同じく「宗教儀礼は必ず宴会になる」という命題も成立するのではないかと私は思っている。/霊的なものの臨在を感じると人々は、できるだけ俗なものをそれに対置させる。そうすることで、「人間が棲息できる程度には汚れているが、人間が敬虔な気分になる程度には浄化された、どっちつかずの空間」を創り出す。世界中の聖地はどこもそうである。それは釈徹宗先生との長きにわたる「聖地巡礼」の旅を経て、私たちが会得した経験知である。/多くの宗教では、厳しい行の後に必ず「直会(なおらい)」というものを行う。それまで禁じられていた飲酒や肉食や放談がそこではむしろ推奨される。過剰に浄化された心身のままで日常生活に帰還すると思いがけないトラブルを引き起こすことが経験的に知られているからである。

内田樹の研究室、のブログから 2019.08.12

「聖地巡礼」シリーズ、興味深い本です。次はまだか?

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2019年8月11日 (日)

表現の不自由展・その後

朝日新聞デジタル2019年8月9日
宮台真司さん「津田大介氏は未熟過ぎ、騒動は良い機会」

 「表現の不自由展・その後」への反発は3種類です。第一は市民や政治家の抗議で、これは自由にやればいい。第二は脅迫で、犯罪ですから警察が対処すべきです。第三は補助金カットなどをほのめかす政治家の恫喝(どうかつ)。文化芸術基本法の、活動内容に干渉せずとの基本理念に反します。政治家の劣化です。

 今回の中止は脅迫による混乱が理由で、言語道断です。毅然(きぜん)とした態度を貫かないと、脅した者勝ちになる。フランスのシャルリー・エブド紙襲撃事件では、マスコミも政治家も識者も「テロに屈するな」と叫んだはずです。

 警察と連携、別会場でボディーチェックなど対処法を編み出すべきなのに、それをせず3日間で中止したトリエンナーレ実行委員会や津田大介芸術監督は未熟すぎます。

 ただ、今回の問題の本質は、税金が使われて公共の場で展示される「パブリックアート」の矛盾です。

 自由な表現としてのアートは、200年前に「社会の外」を示すものとして成立した。作品の体験後に日常の価値に戻れないよう「心に傷をつける」営みとして、自らを娯楽から区別してきました。

 1930年代の米国で、芸術家の失業対策として、公共建造物に税金で壁画や彫刻を作らせたのがパブリックアートのルーツです。ところが81年、リチャード・セラの「傾いた弧」問題が起きる。ニューヨークの広場に設置された巨大なオブジェが、倒れそうで不安だとして反対運動が起き、撤去されます。

 トリエンナーレは自治体主催の地域芸術祭で、住民や政治家が文句をつけ得るパブリックアートの構図で、同じ問題が反復する。住民や政治家は日常になじむものを求め、「心に傷をつける」非日常的作品には抗議しがち。アートとパブリックのねじれです。

 矛盾する二側面を両立させるには工夫が必要ですが、今回はなかった。「表現の不自由展」なのに肝心のエロ・グロ表現が入らず、「看板に偽りあり」です。特定の政治的価値に沿う作品ばかり。政治的価値になびけば、社会の日常に媚(こ)びたパブリックアートに堕する。政治的文脈など流転します。「社会の外」を示すから、政治的対立を超えた衝撃で人をつなげるのです。

 政治的な文脈を利用してもいいけれど、そこに埋没したらアートではない。トリエンナーレ実行委も津田氏も、アートの伝統と、それに由来するパブリックアートの困難に無知だったようです。

 今後の地域芸術祭を成立させるには観客教育が必須になります。アートの「心を傷つける」本質を伝えるのです。今回の騒動は良い機会です。民衆、芸術家と政治家の劣化を世界中にさらして終わるわけにはいきません。

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難しい問題を、うまくスッキリまとめてあると思います。

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2019年8月10日 (土)

悲しみに埋まる

ひと言でいうと、癒(いや)されたくないんです。(柳美里)
   ◇
16歳の時、劇団・東京キッドブラザースの主宰者、東由多加(ひがしゆたか)(当時39歳)と出会い、暮らし始めた。その後別れるが交流は続き、末期癌(がん)の東を懸命に看病するも失う。そして19年、「わたしはまだ悲しい」と作家は言う。「悲しみは時が癒してくれる」という言葉は悲しみを蔑(ないがし)ろにしている。悲しみに埋(うず)まらないとその後もないと。

朝日新聞、鷲田清一による「折々のことば」 2019年8月10日
宗教学者・山折哲雄との対談録『沈黙の作法』から。

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2019年8月 7日 (水)

フラットでいたい

朝日新聞 be on Saturday 2019年7月27日
黒木華「凪のお暇」に主演、から
「私って、日本社会に生きていないですから。お芝居の中に生きているから」。ふんわりと浮世離れした口調で言われると、さもあらんという気になってくる。
大学在学中、野田秀樹主催のワークショップでオーディションに合格。初舞台を踏んで3カ月後には中村勘三郎と野田秀樹との3人芝居に挑戦。大役者を相手にヒロインを張った。その経験が、役者としての基礎になった。「お二人のように、遊びながら楽しみながら、芝居の枠を超えていける役者になりたい」
心がけるのは「フラット」。他人と比べず色を付けず、常に心に波立たぬ状態でいることで、そこからどんな演技にも、感情を持っていきやすくなるという。
自分の定規を持って生きることは、難しいと思う。「人からどう思われるかとか、人からどう思われたいかとか、世の中そんなことばっかりになっている。自分を持つことって、難しい。でも私は、もっとフラットでいたい」

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黒木華、好きな役者です。

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2019年8月 6日 (火)

ドッコイショ

 もうずいぶん昔のことになるけれど、七月二十日過ぎに夏休みを利用して、富士山に夜通しで登ったことがある。いや、もうビックリしたの何のって、山肌にぞろぞろ人、また人で、富士銀座といわれるわけだと、大いに納得したことであった。
 敬虔(けいけん)なる登山者は仏教語の「六根清浄」と唱えながら一歩一歩踏みしめていく。こっちも「ロッコンショウジョウ」と負けずに大声をあげたが、当時は何を意味するのかわかっていなかった。
 のちに『太平記』十八「比叡山開闢(かいびゃく)事」でこんな一文にぶつかった。
「是れ慚愧懺悔(ざんきざんげ)の教主たり。六根罪障の我等何ぞ之(これ)を仰ぎ奉らざらんや」
 要は教主となれるような聖人と違い、われら凡夫は「六根」(眼〈め〉・耳・鼻・舌・身・意)に罪汚(けが)れをもっている。すなわち、眼は不浄のものを見る、耳は不浄の音を聞く、鼻は不浄の匂いを嗅ぐ、舌は不浄のものを食す、身は不浄のものにふれる、意は不浄のことを思う、ということ。そこで聖なる山に登り身も心も清浄無垢(むく)になることを六根清浄という。そう唱えるのは、そうなりたいという神仏への祈りを唱えることになる。
 仏教語では、この六根清浄を略して「六根浄」ともいう。そこでものは試しと、六根浄、六根浄、六根浄、六根浄……と、無限に早口でくり返してみると、いつか「どっこいしょう」と唱えているのに気づく。われら老骨が立つとき、座るとき、寝るとき、起きるとき、無意識のうちに口から飛び出す「ドッコイショ」がまさにこれなり。
 行住坐臥(ぎょうじゅうざが)、われらの祖先はいつでも清浄潔白でありたいと、祈りの掛け声をかけていたのである。世の爺(じい)さま、婆さまよ、このよき伝統にならって、これからは遠慮することなく祈りましょうぞ、「ドッコイショ」と。
 ついでに富士登山の愉快な話を一つ。昭和五年(一九三〇)夏、東京日日新聞(現毎日新聞)がロバ、牛、豚、山羊(やぎ)に富士登山をやらせることにし「あなたのお好きな動物は何合目又は何合半を突破するか」というクイズをだして懸賞募集したら、これが大当たりで、部数がのびた、という嘘(うそ)のような話がある。
 経過は省略して、結果だけ。ロバが一着で、豚はトントンといかず二日がかりでやっと頂上に達したという。そのときドッコイショと豚クンが唱えてゴールイン、なんていうはずはないな。
朝日新聞 be on Saturday 2019年7月27日(歴史探偵おぼえ書き)
ドッコイショと富士登山 半藤一利
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私も意図的に「ドッコイショ」を連発しています。

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2019年8月 5日 (月)

フライパン美容師

ガイアの夜明け シリーズ 人生が変わる働き方!(3)
壮快!ヘアサロン逆転物語 7月19日放送

美容室数は右肩上がり、二十四万七千にもなるとのこと。
コンビニより四倍多い、当然競争は激しくなる。

最初に少し紹介されるのは、定額制シャンプーとブロウ。
月一万六千円で何回でも。新規客の取り込みを狙う。

次に、愛知県春日井市のブランシェという美容室。
イタリアンレストランを開業、フライパン美容師が誕生。
ハサミとフライパンの二刀流、接客業として似たところあり。
美容室の客をレストランへ、主な狙いはその逆の流れ。
うまくいっているようで、全国展開を狙っている。

最後は理容室。個人経営が95%、従業員二人以下70%、
六十歳以上の経営者65%、そこに激安のお店。
紹介されるのは、大阪市の理容室「DEAR BARBER」。
セミオーダーのジャケットやスーツ、コートを注文出来、
髪型だけでなく男性をトータルコーディネートできる店。
ここもうまくいっているようで、二号店がオープン。

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本業以外に手を広げるのはいいことなのでしょうか。
上記の二つのお店、本業だけで充分に見えました。
そもそも理美容院は多すぎでしょう。
ある程度の規制が必要と考えるのは自由を阻害するもの。
資本主義では規制や停滞は避けるべきことなのでしょう。
社会主義が消えた今、資本主義だけしかないのか。

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2019年8月 4日 (日)

湯平温泉

800年前の鎌倉時代にさかのぼる温泉。江戸時代後期に現在の骨格が出来上がる。有名な石畳は300年前のもの。明治以降湯治場として栄える、九州では別府に続く二番手。現在は別府と湯布院に挟まれ、交通の便はよくなく、特に目立つものもなく、衰退している。最盛期60軒あった宿が21軒になっている。
そんな中、頑張っている宿が以下のテレビ番組で紹介された。番組冒頭、山頭火の句が紹介される、「しぐるるや人の情けに涙ぐむ」。

7月28日放送、日本のチカラ、ようこそ湯平へ
山間の小さな温泉旅館物語

紹介されたのは、山城屋、HPはこちら、創業50年、7部屋、1泊2日一万五千円ほど。トリップアドバイザーで日本の旅館部門4年連続トップ10。外国人客が8割、世界30カ国から来ている。
家族経営で、テレビに登場したのは、夫婦と母親、娘。後継者のことも考え、週休二日でやっているとのこと。
何故人気なのか、温泉がいいのは確かだが、ハード面というよりはソフトの方だと思った。コミュニケーションを取る努力をする、情報を発信する、そして、当たり前の優しさ、心を尽くしたおもてなし。
夕食の場面で、美味しそうで綺麗なお寿司が写っていました。鯉の姿寿司というもの、宿のHPに写真があります。

ここに限らず、これからの日本の景気は外国人に依存することになるのでしょうか。となると、現在の日韓関係悪化は大問題なのかな?

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2019年7月29日 (月)

冷凍の魚が生より美味しい

7月14日放送、日本のチカラ、#180
生より旨い冷凍の魚 ~三陸は世界の台所~

岩手県大船渡市の「三陸とれたて市場」、
その社長、八木健一郎を取り上げている。

地元の安価な魚をメイドインジャパンの高級食材に。その為、冷凍熟成という方法を。生に比べて味が詰まって甘味が出てくる。CAS (Cells Alive System) という機械――普通の冷凍は水が凍って解凍する時水とともに旨味が逃げる、ということを避ける機械――の使用。魚の品質を高める、血抜きや神経締め。弱った魚は熟成しても旨味が生まれないので、ストレスがなく生きている状態に近い体力のまま冷凍する。漁師の協力を得て、何年もかけて技術を開発。

市場に出回らない安価な魚に付加価値をつけて海外へ。例えば、エイ。エイの肝はフォアグラより旨いそうです。先ずは香港。今は、安い時に冷凍した牡蠣を送っていました。将来の目標は、EU。

静岡出身の彼、度重なる失敗にもめげず、地元に溶け込んでひょうひょうと仕事を楽しんでいるように見えました。

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