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2020年1月 6日 (月)

肉肉しい

初めて聞くのに分かってしまう説得力
 夕方のテレビ番組は、ニュースとは名ばかり、本当のニュースをあまりやらず、いわゆるグルメ情報が多い。
 今日もかわいらしいお嬢さんが出てきて、「とってもにくにくしい」と言いだした。べつに腹を立てている様子はない。むしろニコニコしている。分厚いソテーを嬉(うれ)しそうに頬張(ほおば)っている。「憎々しい」ではなく、「肉肉しい」と言っているらしい。
 味覚について正確に言葉に換えるのは不可能である。取材の現場ではいろいろな工夫がされていて、テレビのグルメリポーターたちは語彙(ごい)力を振り絞って美味しいものを美味しいように表現しようとしている。
 「まったり」とか、「味のテーマパーク」とか、「まいうー」とか、「ジューシーを通り越して、ジューゴ、ジューロクやあ」などなど。そのうち味覚の言語化ではなく、表現の芸のようになってくる。見ている人は、「美味しい」ということをどう表現するかを聞いているだけで、だんだん飽きてくる。食べたときの楽しさ、嬉しさは、美味しさだけではないだろうと薄々感じっつあった。
 そこで、肉肉しい。初めて聞く言葉なのに、意味が分かってしまうところが面白い。
 とても肉らしい味がする。最初のときの肉の味だけでなく、肉を噛(か)んだときに口の中に広がる肉の風味。喉(のど)どし。肉のエキス。肉好きには逆にたまらない肉の臭みさえ、言えてしまっているようなところが画期的である。説得力がある。
つなげると新しい味覚表現に
 と思っていたら、こんどは「いもいもしい」というのが現れた。「忌々(いまいま)しい」とは違う。「芋芋しい」なのだ。
 芋の味は、ただ甘いだけではない。こつてりとした重みというか、口内の水気を吸い取られてしまうような、息詰まるような感覚と言うか、口当たりや歯ごたえの素材感が芋の魅力として欠かせない。いかにも芋である。「いもいもしい」も悪くない。
 こうしてみていると、モノの名前を二つつなげると、新しい味覚表現が可能になる。一部では、「ツナツナしている」というのがあって、ツナ缶を噛みしめたときの歯触りを言う。
 ただし、桃の独特な口内感覚を言おうとして、「ももももしい」となると、これはちょっと言いにくい。
 次にどんな言葉が出てくるか、楽しみにしている。

サライ2019年12月号、金田一秀穂による連載「巷(ちまた)の日本語」、第35回「肉肉しい」。

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