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2019年12月17日 (火)

パトリオティズム

朝日新聞 be on Saturday 2019年12月14日
(歴史のダイヤグラム)鉄道とパトリオティズム
原武史(政治学者)

 民俗学者の柳田國男は、1934(昭和9)年に発表した「旅人の為に」で、列車の窓から眺められる全国の絶景区間を列挙してから、こう述べている。「日本はつまり風景のいたって小味な国で、この間を走っていると知らず識(し)らずにも、この国土を愛したくなるのである。旅をある一地に到着するだけの事業にしてしまおうとするのは馬鹿げた損である」
 「この国土を愛したくなる」感情というのはパトリオティズムであって、ナショナリズムではない。それは目に見える具体的な国土を愛する感情であって、目に見えない抽象的な国家を愛する感情とは区別されるものだ。
 柳田が車窓から見える絶景として真っ先に挙げたのが、北陸本線の杉津(すいづ)付近から見える日本海である。「越前の杉津の駅頭から、海に臨んだ緩傾斜を見おろした眺めなどは、汽車がほんのもう一分だけ、長く止まっていてくれたらと思わぬ者はない」
 しかし、現在のJR北陸本線の車窓からこの風景を眺めることはできない。62年に同線の敦賀―今庄間に総延長1万3870メートルの北陸トンネルが開通し、杉津など三つの駅が廃止されたからだ。これに伴い、車窓はトンネルの闇に覆われてしまった。
 それでもまだ、北陸本線にはトンネルの前後に車窓から風景を眺められる区間が残っている。2022年度末の開通を予定している北陸新幹線の金沢―敦賀間では、総延長1万9760メートルの新北陸トンネルの建設が進められている。在来線よりも長いトンネルが連続する新幹線では、もはや風景を眺めること自体ができなくなる。
 全国で新幹線やリニアが建設され、「旅をある一地に到着するだけの事業」にすることがはびこるほど絶景区間は失われ、パトリオティズムも衰退する。代わって抽象的な国家に自らを重ね合わせるナショナリズムが台頭してきたと考えるのは早計だろうか。
 確かにそれは早計だろう。絶景区間を眺められるローカル線は、まだ残っているからだ。福島県の会津若松と新潟県の小出を結ぶJR只見線もその一つである。11年の豪雨で一部区間が不通になっているが、21年度に復旧することが決まっている。
 いまや只見線の車内は、中国やタイなど、アジアから来た乗客であふれている。春の桜や秋の紅葉ばかりか、只見川から霧が立ちのぼる夏や、一面の雪景色に覆われる冬もまた、彼らにはこの線でしか見られない風景に映るようだ。「この間を走っていると知らず識らずにも、この国土を愛したくなる」と感じているのは、経済合理性を第一に考える日本人よりも、わざわざ車窓を眺めに来日する外国人かもしれない。

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nationalism 1国家主義、国粋主義;愛国心、国家意識、国民精神;愛国主義[運動]2民族(独立)主義

patriotism [通例ほめて]愛国心

ジーニアス英和辞典より

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