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2019年11月24日 (日)

喰ってみる

サライ2019年11月号、林望による連載「リンボウ先生の男の買いもの」、第37回「喰ってみる」。

 ケンブリッジ大学のさる大生物学者は、どんな生き物も喰ってみなくては心底のところが分からぬと言い、何でも喰ったそうである。で、学者仲間から「喰ってみた結果、いちばん不味(まず)かったものは何だったかね?」と訊(たず)ねられて、彼は平然として、こう答えたという。
「そりや、青蝿(あおばえ)だな」
 こうなると、とてもついて行けないが、明治の大流行作家であり、明治最大のベストセラー『食道楽(しょくどうらく)』の著者村井弦齋(むらいげんさい)なども、この種の執念に取りつかれ、なんでも生で喰うのが健康に良いと称して、家族にまで生の虫などを喰わせたという。まことに迷惑なる信念であるが、しかし、人間には、日頃から食べたことのないものを是非食べてみたい、そういう曰(いわ)く言い難い欲求があるのである。
 実は私もその手の思いは人並み以上に抱いているので、健康に危険のない限り、なんでも喰って味わってみたいと思う。
 そう思っていたら、いま話題のヒグマも、ちゃんと缶詰めの大和煮(やまとに)になって売られているのを発見、早速取り寄せた。ついでにアザラシの大和煮缶詰めも……。
 しかしながら、こういう天然野生の獣肉をもっとも十全(じゆうぜん)に味わうには、やはり塩胡椒(こしょう)位で、炭火焼きにでもして喰うのが一番だろうと思うので、大和煮缶詰めになってしまうと、ヒグマもアザラシも、あまり代わり映えのしない味だったのは、いささかがっかりした。もし寄生虫などの危険が無いのであれば、アザラシなどはぜひイヌイットの人達と同じように、生で喰ってみたいものだが、なかなかそれは日本にいては叶(かな)わない。
 昔は日本料理の最高の珍味としては鶴肉なんてのがあったのだが、今は喰うことができぬ。残念。では、たとえばペンギンなどはどんな味がするのであろうか、そういえば、アホウドリを喰い続ける漂流者の小説もあったよなあ……。
 それからまた博捜(はくそう)して、カンガルーのサイコロステーキ、ワニの脚のシシカバブなども取り寄せてみたが、いずれも肉の風味としては特に上乗(じょうじょう)の美味とまではいかなかった。鹿やイノシシなどの野生の肉、いわゆるジビエともなると、この頃ではもう珍しくもなく、ダチョウなどは専門の牧場まである。
 さてさて、もう少しあちこち博捜してみて、なおまた喰ったことのない奇肉を見付けたら、人の譏(そし)りを尻目に、ぜひ取り寄せて喰ってみたいものである。呵呵(かか)。

*****

「人間には、日頃から食べたことのないものを是非食べてみたい、そういう曰(いわ)く言い難い欲求があるのである。」というのは確かにそうだろう。私にも間違いなくある、が、ケンブリッジ大学のさる大生物学者や村井弦齋には遙かに及ばない。しかし、リンボウ先生に近い欲望は持っていて、クマ・カンガルー・鹿・イノシシ・ダチョウは食べたことがある。今実際に食べることが出来るのは、栽培飼育されたものがほとんど、食べたことがないものを食べたいという欲求が満たされないのは残念である。なので、新しいラメーン店やパン屋などが出来るとすぐに行く、これはちょっと違うかな。

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