「しゃぶる」と「しゃべる」
おそらく、乳を飲むと同時に、実にいろいろなことを知る為事(しごと)をしているに相違ない(戸井田道三)
赤ん坊は、乳首を、物をしゃぶることで世界を「勤勉に」探っているのだと、能芸の評論家は言う。しかも「しゃぶる」は「しゃべる」と地続き。人は世界との関係を口で吟味する。それが快いと、食事は美味(おい)しく、会話は弾み、心ゆくまで歌い、口づけもするが、不快だと、食欲も言葉も歌も失い、人との接触にも怯(おび)える。人の幸不幸は口に集中する。『食べることの思想』から。
朝日新聞、鷲田清一による「折々のことば」2019年10月1日
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